「時間はモノじゃなく生き物だ」とアリスに言った帽子屋のことばを手帳に貼った。「あんた、マ(Time)のやつとわたしみたいにつきあいがあったら、『それを』(it)なんて言わないはずだがな、『彼を』(him)だよ」。Timeは人名のように大文字で始まっている。
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有名なアリスの「狂ったお茶会」の場面で、帽子屋が出した、答えのないなぞなぞにそんなことで時間をつぶすなんて(wasting it)とアリスが言ったのに対して、帽子屋が言ったのが、手帳に貼った冒頭のことば。
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アリスの物語の中ではナンセンスな話が続いていくが、心理的時間のことを思った。時間の長さの感じ方は、時計のように一律ではない。楽しいことをしているときは時間がはやく過ぎ、いやなことをしているときは時間がなかなか進まない。
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注意の向け方の問題だと実験心理学ではいわれる。楽しいことには注意が集中して、そのことによって時間が短く感じられると説明するのである。ゲームに集中して注意を向けて没頭したりすると時間の経つのははやい。
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よく、大人になると時間の進むのがはやく感じられるというが、そのはっきりした説明は難しいようだ。大人になると楽しいことばかりだから時間が短く感じられるという説明はなりたちそうもないし。
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わたしはといえば、大人になってから時間がはやく進むとはあまり感じないので、その説明を探すよりも、時間の長さの感じ方のコントロールに役立ちそうで好きなのが分割錯覚だ。
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音を短い間をおいて2回聴く。2回の音の間の時間の長さを推定する。今度は同じ時計時間で聴く2回の間に、何回か新たに音を加えて聴く。そうしてまた、最初と最後の2回の音の間の時間の長さを推定すると、音で分割した方が長く感じるという錯覚だ。もちろん最初と最後の音の間にはさむ音の回数の違いによっても、時間は伸び縮みし、一番長くするには、適度な分割数が存在する。
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楽しい時間は長く続いてほしい。楽しいことが長く続くようにするコツは適度な区切りの入れ方にポイントがありそうである。
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スマホのアプリもあるが、ポモドーロ法という有名な時間管理法のことを思ったりする。これは、25分仕事をして5分休むを繰り返すと仕事の効率が上がるというものだ。時間の分割の意識化によって時間をコントロールする技の一種といえるかもしれない。
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アリスの帽子屋がいうように、時間は生き物だから、友だちになって、思いのままにしたい。手帳を書く時間は、一日の時間の分割の一コマとして役立ち、一日の時間を増やす手助けをしてくれているのではないか。
*写真の本は、工藤和代『不思議の国のアリス』日本ヴォーグ社(2003年)である。
(2021.11.08) 手帳2021-45