10年ぶりに見た映画「アリス」は、やっぱり苦手だった。チェコのシュールレアリスト芸術家シュヴァンクマイエルのアニメーション映画「アリス」は評価が高いけれど、はさみをふりまわす白うさぎが登場したり、まずそうな食べ物シーンがあったり、見事なほど生理的嫌悪を誘う。
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共産党統治下のチェコスロヴァキア(現チェコ共和国)の厳しい現実の中で生み出されたアニメーションであることを知った上で見ると、嫌悪感を経験することも意味があるかなとは思うのだが。
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チェコの文化の魔術性を味わえても、あまりにおどろおどろしい方にひっぱられてしまったので、口直しに、最近、展覧会が東京で開催された、チェコ出身の絵本画家ピーター・シスさんの絵を楽しむことにした。
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ピーター・シスさんは共産党統治下の母国から米国に亡命していて、閉塞的な状況にあったチェコを描いた絵本『かべー鉄のカーテンのむこうに育って』は、作品の中でも特になにかと注目を集めるようだ。
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手帳左ページに貼ったのは『かべ』の中の1枚で、家の中にこもっている人々や、盗聴している人が描かれている。
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作風は、どこか暗さを漂わせつつも、シュヴァンクマイエルのようにおぞましさはない。困難さを、子どもに伝えるときも、こちらならという感じがする。大人になってから、状況への嫌悪感をたっぷり味わって見るのは、それなりに意味があるかと思うが。
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シュヴァンクマイエルの「アリス」は、今、アマゾンプライムビデオで無料で見ることができるのに気づいて見返してみたのだが、10年以上前、現代アートの美術館、ワタリウム美術館に数回行った後、すっかり足が遠のいたことを思い出すに至った次第である。シュヴァンクマイエルの映画をあれこれ見たときがあったけれど、今回は次を見ようとは思わない。
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現代アートのある種のものが放つ毒を常に美味しく味わえる体勢にはなかなかなることができない。「アリス」は、2021年10月にBlu-ray・DVD復刻とのことである。人気があるのだ。だが、けっして、お茶の間のものではないし、多数派のものにはならないはずだ。
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それに比べ、ピーター・シスさんの絵は、多くの人に好まれるだろう。苦難の物語や自由への希求を多数で共有するには、暗さのある作風でも、一定の健康さをクリアしていることが必要である。
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もちろん、シュヴァンクマイエルの作品は新しい造形の世界を開いた点で価値は高いのであろうし、「アリス」は政治体制への関心ばかりで制作されたものではないはずだが。
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ピーター・シスさんは先日ポストしたエドワード・ゴーリーさんのファンでもあるそうだ。なるほどと思わせるところがある。凡庸さを思い知らされながらも、米国では広く知られている人気絵本作家、ピーター・シスさんの絵を手帳には貼りたい。
*ピーター・シスさんの展覧会、2023年春に伊丹で開催されるそうである。
(2021.12.23) 手帳2021-68